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正しい批判とより良い議論

突拍子もないタイトルですが、 今日は教育系の話です。

ちょうど、論文の批判的レビューを読んで気になったことがあるので、私が大学院の博士課程で師匠から学んだことを記します。とりとめもなく記すので、話があっちに行ったりこっちに行ったりすることがありますが、おつきあい下さい。

ぜひ読んでほしいのは、高校生~大学生の方々でが、社会人の方も良いかも。現在、「くだらない勉強をしているな」と感じていたら読んでほしいです。くだらないなと感じている勉強は、きっと教科書の内容を覚えたりといったことでしょう。これからはネットで調べればすぐ答えが分かります。覚える必要は一切なくなります、覚えるだけ無駄です。

私は大学を卒業後、一定期間社会人をしたのち、社会人大学院に行きました。社会人大学院とは言っても、MBAとかそういった実務家を養成するところではありません。即戦力になるビジネススキルを身につけるというよりは、アカデミックな学問を追求する場所でした。テクニカルスキルとかそういったものではなく、コンセプチュアルスキルといった、素養を涵養するところです。将来的には大学の教員を目指したり、研究機関の研究員を目指す人が多くいました。

よく言われることは、「よく大学院なんて行きますね、勉強が好きなんですね」です。はっきり言いますと、私は勉強は好きではありません。このブログでも何度も書いていますが、勉強(受験勉強)は無駄だと思っています。

一方で、学問は大変有意義なことです。

学問とは「なぜなぜと問うことです」大学とは本来学問をするために行くものです。就職のために行くものではありません。ただ、そうはいっても、大学卒が条件となっている企業もあるため行かざるを得ないかもしれません。

なので、よほど意識しないと学部が勉強で終わってしまいます。優秀な教授の元に行くことができれば、学問の面白さを見出すことができるかもしれません。ただ、それはなかなか難しいので、学問の面白さを追求する方には、大学院での博士課程をおススメします。

さて、少し本題からそれましたが、「批判」「高め合う」の話をしましょう。

学者を目指す方は、自分の論文も大切ですが、他人の論文も大変参考になります。他人の発表をしっかり聞くことで自分のためにもなります。他人の発表を聞くうえで、意識すべき3つの点があります。これが今日のお話です。

学部レベルでは高度な議論は難しいです。なので、まずは「素朴な疑問」「質問」を意識することです。社会人大学院には様々な背景の人たちが集まってきます。年齢も様々20代~60代、役職も平社員~大企業役員など本当に様々です。みんなが同じ土俵で議論します。「素朴な疑問」「質問」とは、相手の発表で分からない単語などを質問します。相手の業界独特の用語などあります。そういったものを質問します。相手も素人に説明するため、頭をフル回転させるため考えが整理されたりといいことがあります。また、他の業界の人からすると不思議な慣習などもあるので、質問すると気づきがあります。こういったことができれば学位としては十分です。

博士前期(修士)の場合は、仮にもその分野の専門家を目指している訳なので、もっと踏み込んだことができる必要があります。それは「批判的に物を見る」ことです。批判というと簡単なように思えますが、本来の批判とはきわめて難しいことです。おそらくほとんどの人はできていませんし、私もできていません。ちょうど読んだ論文の批判的レビューでも、自分の土俵に無理やり引き込んで、フルボッコにする方式です。正しい批判とは、まずは相手の背景をしっかり理解することが必要となります。相手に著書があればすべて読み、論文をすべて読んだ上で、初めて批判できる立場になります。この過程をすっ飛ばした批判はただの言いがかりです。あまり有意義なことではありません。とりあえず、まずできることは相手を肯定的にとらえること。そして、肯定的にとらえた自分をより客観性をもって(本来自分自身を客観的に見ることはできないので、間主観性という話が出てきます)批判的に見ます。簡単に言うと、理解して自分の中に取り入れて、批判的に見るということです。自分とは違う発想を自分に取り込むことは結構難しいことです。当然、相手の学問分野のある程度の理解はあるほうが良いでしょう。

さらに博士後期(博士)となると、批判のレベルを超える必要があります。批判とは批判すれば終わりです。そうではなくて、「相手の意見をより高める(社会で認められる)ものにするにはどうすればよいか助言を与える」ことができるレベルです。これができるようになると大学の教員、研究者として、実績が残せるレベルですが、我々のゼミナールではこういったレベルを求められていました。私は、残念ながらまだまだできません。当分修行が必要です。

同じ学問領域であっても、細部は恐ろしいほどわかれているので、基礎はすべて踏まえたうえで助言を行わなければ、有意義な助言をすることはできません。なので、博士後期の間に、自分の学問だけの狭い視野から、離れなければなりません。「私は文系だから理系は関係ないや」ではいけません。有名なコンティンジェンシー理論などは、ダーウィンの進化論からヒントを得たものだったりします。学問には境界があるように見えますが、すべてはつながっています。経営戦略、マーケティング、人的資源管理、組織、会計、心理学・・・それぞれ名前はついていますが、根底はそれらが複雑に絡み合ってできています。世界と一緒で国と国の国境線はありません。学問の国境線もありません。

さて、色々述べてきましたが、より良い助言は敷居が高いので、まずは「批判」について見直してみてはいかがでしょうか?